始まり ピアノ調律師の夢 その2

先日は、いよいよピアノ調律師の学校に行き、いきなりアップライトピアノを調律してみろと、先生に言われ、放置されてしまい、非常に困惑した所まで書きました。

今日はその先の事を書きます。 先生は私に、赤いフェルトの布がピアノの弦に挟まっている、一般的に真ん中の低いドから高いドまで、調律をして見なさいと言われました。

しかし、ピアノの弦と言うのは、普通の音域の所は、弦が3本もあります。低い箇所になると、弦に銅線が巻き付いて、その銅線付きの線が2本の所もあれば、1本の所もあります。

私が先生にやれと言われた箇所は、ピアノの弦が3本の箇所で、1本1本が同じ音程に保たれています。なんで3本もあるのか、1本で良いじゃ無いかと思いましたが、そこは、1年生で最初の一歩なので、疑問には思ってはいけないと自分をなだめ、最初は低いドの一番左の弦をチューニングハンマーで緩めました。

キーを叩くとドの音が、ドーから、ドウー、ドアーン、ドヤーンになり、なるほどと思い、これが濁った音かと何となく面白くなって来ました。

それから、チューニングハンマーで締めて行くと、元に戻ったかなと思ったら、締め過ぎてしまいドギャーンになり、コリャいかんとまた緩め何とか元の音に戻し、次のレの音も同じ事の繰り返しで、何とかこなしましたが、しかしそこまでは、3本の弦の音を滅茶苦茶にしたのでは無く、1本だけ外しただけなので、2本目、3本目の弦は元のままです。元の音は2本目.3本目の弦を弾けば出て、何とか、その音を聞きながら、同じ音に出来たのです。

そこで、よせばいいのに、ミの音は、3本の弦をすべて、滅茶苦茶にして、また元に戻そうと考えた訳です。

メチャクチャにした後のミの音は、ドミャーンというか、ドひゃーんと言う音になって、まずは、3本目の一番左の弦から直そうと思い、チューニングハンマーで弦を締めていっても、まったく音が変わりません。

おかしいなと思い今度は緩めても、まったく変わりません。 コリャ、どうした事かぇと、よく見ると、違うボルトを私は一生懸命、締めていたのです。

アリャー、被害が拡大したと思ったのもあとの祭りです。 取り敢えず私は、ミの音を確実に直さなければならず、さりとて、ミの音程の音は3本とも崩してしまい、見本の様な音がありません。

仕方が無いので私は、ド・レ・ミと口ずさみ そうだ自分で音程を出せばいいんじゃないかと、変な自信がつき、

ミー・ミー・ミーーー と大声で音程を言っていると、今まで放置していた先生が飛んで来て、

”ちょっ ちょっと、あなたねー 蝉じゃないんだから、ちょっと貸してみて下さい。アリャー 随分ボルトを緩めチャッタねー” と言われ、ミの音の調整をして頂きました。

その後、ファの音です。実はファの3本の弦も滅茶苦茶に緩めてしまっていたので、

また、ファー・ファ-・ファーーーぁ と大声で音程を取りながら、弦を締めていると、また先生が、すっ飛んで来て

”ちょっ ちょっと、アンタ ゴルフ場のキャディさんじゃ無いんだから、大声を出さないで下さい。そう言って、ファの音の調整をして頂きました。

見れば、うしろでピアノの調律をしているお嬢さんが、うずくまって、泣いて笑っていました。

先生は私に、3本の弦は全部滅茶苦茶にしないで、今日は最初ですから1本だけにしましょうと言っていました。ならば最初に言って欲しいと思いましたが、それはやはり謙虚という気持ちがなければいけません。先生は2本目、3本目の弦を弾くための、爪楊枝のデカイ奴みたいな物を私にくれて、これで弦を弾くと、やりやすいですよと、言ってくれて、早く渡せばいいのにと思いましたが、ここでもやはり謙虚という気持ちがなければいけないと思い、恐縮ですと言いました。

しかし、その時に私は、ピアノの弦を見ていて、ピアノの弦はピアノ線だよなー ピアノ線は、昔、成虫になったモスラや、ゴジラの巨大な尻尾を動かしたり、特撮映画は皆、ピアノ線を使っていたよなー などと、考えていました。

先生は私の考えている様を見て、そんなに緊張をしなくても大丈夫、頑張りましょう。私もお手伝いを一生懸命しますから。

と、おしゃって頂き、まさか、モスラやゴジラの事を考えていたとも言えず、よろしくお願いしますと言いました。

時計を見れば、初めてから何時間も経っていて、立ちっ放しなので、足が疲れました。

また、機会があればピアノ調律のお話をします。